導入事例

生徒たちが書物に触れる
きっかけにJKSを活用

熊本県立宇土高等学校
(熊本県宇土市)

熊本県立宇土高等学校は旧制中学からの伝統校で、熊本県宇土市に位置する公立高校。2013年、スーパーサイエンスハイスクール(以下、SSH)の指定を受け、そのころから探究型授業を実践している。

今回は宇土高等学校の横川修校長と、探究部長兼進路指導主事でSSH事業推進をされている後藤裕市先生、そして学校図書館の司書松村康代さんに、ジャパンナレッジSchool(以下、JKS)導入の経緯、探究学習での活用や費用面のことなどのお話をうかがった。

全国的に先駆的な取り組みとなった探究型授業「ロジック」とは?

──宇土高校は2013年にSSHに指定され、探究学習についても全国に先駆けて取り組まれてきました。

横川:本校はSSHに指定されてから、2024年で12年目を迎えました。SSH指定当初から探究活動に力を入れており、すべての教科で教員と生徒が「問い」を大事にする授業、「探究の『問い』を創る授業」に取り組んでいます。探究的な学びは決して教科の学びと別にあるわけではありませんから、教科学習と一体となって、生徒一人ひとりが主体的に探究の学びを実現できる学習環境の整備を進めていきたいと考えています。

そういった中でJKSとのご縁をいただいたことを、大変ありがたく思っています。これからも工夫を重ねながら、JKSを効果的に活用していきたいと思っています。

後藤:併設型中高一貫教育校になって、今年で16年目になります。本校は隣接する熊本市と同じ県央学区にありますので、少子化や熊本市への人口流出など、さまざまな事情から、常に学校の魅力を発信しなければなりませんでした。中学校では、熊本の豊かな自然を活用した「農村体験」や「無人島サバイバル」などの体験活動を充実させ、グローバル教育にも力を入れています。

高等学校では、2012年から「GLP(グローバルリーダーズ育成プロジェクト)」を中心にグローバル人材の育成に力を入れています。海外留学のほか、国際学会や国際会議へ派遣されたり、研究大会などで発表をしたりなど、約400人の生徒を海外に派遣しています。そして2013年にSSHの指定を受け、その年から探究活動の取り組みとして学校設定教科「ロジック(LOGIC)」がスタートしました。

──「ロジック」は探究学習の先駆け的な取り組みとして全国からも注目を集めました。

後藤:SSHの指定を受けた際、生徒に身につけさせたい力を定義してから進めていこうということになりました。LOGICは、Think Logically, Objectively and Globally. Be Innovative and Creative. のスローガンの中にある「論理性」、「客観性」、「グローバル」、「革新性」、「創造性」の5つの頭文字をとったものです。当初は、本物を見せる機会、より大人と接する機会を重視していこうと、大学との連携や企業見学など、外部につながる機会を多く設定しました。今も外部との連携を大切に、探究学習を進めています。

──「ロジック」の流れについて教えてください。

後藤:高校入学後すぐ、「ロジックリサーチ」という一人1テーマの探究学習を始めます。生徒一人ひとりに担当教員がついて、設定したテーマで半年ほどかけてレポートやポスターを制作し、発表します。さらに1年生の後期には、個人もしくはグループで自然科学系のSS(スーパーサイエンス)コース、人文科学・社会科学系のGS(グローバルサイエンス)コースに分かれ、「プレ課題研究」という2回目のテーマ設定を行います。2年生に進級すると、「課題研究」に進みます。2年生でもSS課題研究、学際課題研究、GS課題研究を選択、それぞれテーマ設定をし、ポスターセッションや口頭での発表会を実施します。さらに3年生はまとめの論文を作成します。つまり本校の探究学習においては、高校生活3年間で計3回、テーマ設定を行えるようになっています。

──テーマ設定では図書館とも連携をされているとか?

後藤:入学後の「ロジックリサーチ」のテーマ設定では、生徒たちがインターネットに安易に頼ってしまうという大きな課題がありました。これまでも図書館と連携を試みようとしましたが、なかなかうまくいかなかったのです。しかし、今年度(2024年度)からは、生徒により多くの書物に触れさせるために、国語科と図書館が連携して進めようという動きが出てきました。

松村:「ロジック」の時間に先生たちと面談した後、生徒たちは自分が考えたテーマについて調べるために、図書館を活用します。でも、私たちのところにやってくる生徒たちの多くは、まだ、もやもやした段階で、テーマ設定も曖昧な状態です。司書は、生徒たちがテーマを絞るためのサポートをするよう心がけています。

また今年度から、1年生のオリエンテーションのときに、図書館の分類法である「日本十進分類法」を実践で学んでもらおうという取り組みをしています。

まず、自分の好きなジャンルでいいので、図書館で新書を1冊借りる。その借りたものと違う分類の図書をもう1冊借りる。つまり分類の違う本を2冊以上生徒たちは借ります。生徒たちには、それらを1か月かけて読んでもらい、図書館に返却してもらいます。その際、自分で分類を見ながら棚に戻します。生徒たちには図書館の使い方も説明したいし、分類も知ってほしい、そして本の探し方も知ってほしいと、図書館について伝えたいことがたくさんあります。今年の1年生には、図書館には分類があって、その順番に本が並んでいるということを、まず知ってもらいたいと思いました。自分の体を動かしてやってみることで、図書館の使い方について知ってもらうことができたのではないかと思います。

あらゆる面で役に立った1年のトライアル期間

──JKSの導入はいつからでしたか?

後藤:今年度からです。昨年度(2023年度)、経済産業省の補助金(探究的な学び支援補助金)で1年間トライアルができたことがよかったですね。生徒たちだけでなく教員も利用できたので、実際に教科の授業や探究活動にJKSをどう活用していくか体験できたことは、非常に大きかったです

横川:辞書や副教材などを選定する手順や考え方は、各教科に委ねられています。家計支出の軽減や生徒たちの使い勝手、そして高校から大学への接続を考えたときに、多くの大学図書館で導入されている「ジャパンナレッジ」を母体とするJKSをぜひ活用したいと思いました。今後、教員たちが研究を重ねながらJKSを有効活用できる方法を見出していくものと、大きな期待をもって導入させていただきました。

後藤:探究的な学びを進めるうちに、難しさを感じ始めていたんです。SS課題研究では、文献や資料を活用した論文作成や研究の進め方において、またGS課題研究では、いかにネット等に頼らず、しっかりとした出典を明らかにしたうえで学習を進めていけるかという点で。今回導入を決めた背景には、生徒たちがより身近に書物に触れるきっかけとしてJKSを活用できたらいいな、という思いがありました。

──費用面について、現在はどなたの負担になっていますか?

後藤:JKSを導入することについては、PTA総会や保護者会で説明をし、承認を得ました。現在は各家庭にご負担いただいています。やはり、昨年のトライアル期間が保護者のご理解につながったのだと思います。

──副教材とJKSについて教えてください。

後藤:昨年度末に副教材などについての検討を各教科にお願いしました。検討の結果、JKSに搭載されているが、あえて図書(紙版)も副教材として採用した教科もあるし、JKSだけでよいとした教科もありました。

これについてもトライアル期間に検討できたのが大きかったですね。「(ビジュアルカラー)国語便覧」や「(八訂準拠 カラーガイド)食品成分表」、そして大学入試の小論文などで活用できる「現代用語の基礎知識」や「(文藝春秋オピニオン)論点100」は副教材として使えます。こういった場面で使えそうだとか、これまで購入してきた図書と重複しているからどうしよう、というような話を、教員内、教科内で共有しながら整理ができました。

JKSが「索引」の役割を果たしてくれることに期待

──ネットやデバイス環境について教えてください。

後藤:本校は教育の情報化認定制度、JAET(教育の情報化に総合的に取り組み、情報化によって教育の質の向上を実現している学校を、日本教育工学協会が認定)の優良校となっています。中学1年生から高校3年生まで、家に持ち帰り可能な一人1台の端末(Chromebook)配備を実現しています。ネット環境については県の回線が整備されており、現在は教室や体育館といった学校の敷地内はほぼすべて(グランドを除く)ネット使用が可能になっています。また、投影装置に関しても、電子黒板が10台以上あるだけでなく、すべての教室にプロジェクターが配置されており、授業でICTを使っていくうえで必要な環境は整っていると思います。そして、生徒一人につき1つのGoogleアカウントが貸与されています。教員と生徒間の提出物等のやりとりは、ほぼGoogleのアプリケーションを活用しています

──導入されてから、授業でのJKSの利用度は上がっていますか?

後藤:昨年のトライアル時と比べれば、今年の利用件数はだいぶ伸びており、JKSの認知は広がりつつあります。特に探究活動では、語句や定義を調べたりするとき、たとえば高3で論文をまとめたりする際に活用したり……。教員も授業でネットを利用するときは、検索エンジン(GoogleやYahoo!)で調べるのではなく、JKSでまず検索してみようという意識を生徒たちに伝えています。

──生徒たちのJKS利用頻度を上げるために、工夫されていることはありますか?

後藤:Google ClassroomにJKSのリンクを張っています。また、使い方がわからない生徒もいるので、JKSの使い方動画にもリンクを張っていますね。来年度は、もっとJKSを活用していきたいと思うので、生徒たちにより効果的なガイダンスができればなと、今はさまざまな事例を蓄積している段階です。

──JKSを使ってみて、生徒たちの反応はいかがですか?

後藤:JKSの検索を利用した際に出てきたりする言葉をきっかけに、ちょっと図書館に行って調べてみようかとか、あるいは、JKSに搭載されている同じ種類の新書を図書館へ探しに行こうとか、JKSを図書館とも並行しながら使っているような様子は、生徒からうかがえます。

──知識や情報は、図書館に蓄積されています。ぜひJKSをきっかけにして、その先へ生徒の皆さんが進んでいければいいですね。最後に、図書館としてJKSに期待されることはありますか?

松村JKSには百科事典の索引のような役割を期待しています。例えば、新書には索引が付いていないものが多いです。目次を読むだけでは、その本の知りたいことについてわからない場合があります。JKSはキーワードさえ間違わなければ、どの本に何が書いてあるのかがわかります。

お目当ての本がJKSで見つかれば、さっそく端末で読めます。でも探究活動の内容によっては、実際に紙の本を広げて作業するほうが良いこともあります。また、同じようなテーマの本を探したければ、図書館の同じ分類の棚で探すこともできます。JKSを入口に、生徒たちが図書館をよりいっそう活用してくれることにつながればと思っています。

宇土高等学校の横川修校長
探究部長兼進路指導主事でSSH事業推進を
されている後藤裕市先生
学校図書館の司書松村康代さん

宇土高等学校のご紹介

熊本県宇土市にある公立高校。1920(大正9)年に開校した旧制宇土中学が前身。2009(平成21)年に宇土中学校が開校し、併設型中高一貫教育校に。建学の精神である「質実剛健」のもと、「創造、挑戦、感動」を教育スローガンに掲げて、「確かな学力の向上」と「人間力の育成」を柱とした先進的な教育活動を推進している。教員自身による研鑽(けんさん)、研究の取り組みも盛んで、年に2、3回、探究型授業の公開や、授業研究会が開催されている。

URL:https://uto-sh.com/