平塚江南高等学校の探究活動は「共創探究」がテーマであり、3年間のプログラムを通じて、論理的思考力、情報活用能力などを身につけることが目標です。「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」事業第Ⅱ期への指定を機にプログラムの見直しを行い、図書室との連携の強化や、卒業生、近隣の学校、博物館、企業など外部との交流を充実させ、生徒がより主体的に研究に取り組むことのできる環境を整えています。
今回は、探究活動を指導する研究開発グループ所属の辻祐哉先生と、図書室でのオリエンテーションを担当する司書の橋本さな子さんにお話を伺いました。
正しい情報収集の方法を学び、探究の基礎固めを行う
辻先生:本校は共通教科「理数」において探究活動を進めています。1年生の前期で科学的な探究に必要な研究倫理や統計学などの基礎知識を学びます。昨年度との大きな違いは、図書室オリエンテーションの見直しです。
司書の橋本さんに協力してもらい、図書室の利用方法だけではなく、ジャパンナレッジSchool(以下、JKS)をはじめとしたデータベースの使い方を丁寧に指導するようにしました。授業中も積極的に「調べ物はまずJKSを使ってみよう」「図書室でレファレンスを受けてみては?」とアドバイスしていることもあり、生徒たちの情報リテラシーが高まっているのを実感しています。研究を深める新しい視点は、多くの信頼できる情報にあたることで生まれるため、1年生の早いうちから正しい情報収集の方法を身につけることが重要だと考えています。
橋本さん:オリエンテーションは2クラス合同で30分という短い時間ですが、一方的に説明するのではなく、実際に生徒が手を動かしながら学べるよう工夫しています。オリエンテーション後の生徒は、自分で蔵書情報を確認してから質問してきたり、レファレンスの際も自分が必要としている情報をしっかり把握してから声をかけてきたりと、積極的に図書室を活用していてうれしく思いました。
静かな図書室というよりは、分からないことがあればすぐに立ち寄れる、利用しやすい図書室になるよう心がけています。
画像1:図書室オリエンテーションに利用している、JKSの使い方についての資料。
身近な平塚市をテーマに、探究に必要な基礎力を定着させる
辻先生:1年生の後期では、平塚市を軸に4つの分野から気になるものを1つ選び、ミニ探究を行います。前期で学んだ知識を実際に使うことで、探究に必要な視点や研究手法を学び、定着させることが狙いです。
「数学・物理」「化学・生物」「環境・防災」「人文社会」の4分野に分かれて、本校のある平塚市に絞ってテーマ設定を行います。これには理由があります。特に文系の探究だと机上での学習に留まってしまうことが多いのですが、身近なテーマですと、すぐにフィールドワークに出たり、簡単な実験をしたり、関係者に話を伺ったりできます。どの分野であっても調べ学習に留まらず、外の世界に情報を取りに行くハードルが下がるため、2年目以降の探究活動でも積極的に情報を取りに行く姿勢が身に付くと考えています。
また、本校には素晴らしい卒業生が多数いるため、生徒たちの探究についてアドバイスをもらうことも多いです。このように校外に目を向け、自分とは立場の違った、普段見えているものが異なる人の意見に触れてフィードバックをもらう体験は、探究活動に必要不可欠だと考えています。
画像2:1年生の「ミニ研究」で実際に生徒が発表した資料(一部)。
JKSを活用した定義確認の徹底で、より深い問いをつくる
辻先生:2年生になると、本格的に探究学習が始まります。新たに「自然現象と数理」「生命・物質の世界」「環境問題と自然災害・防災」「人文・言語と社会、世界と地域」の4つの分野に分かれ、興味関心の近い3~5人で集まって、原則としてグループ研究を行います。
テーマはグループごとに新規で設定するのですが、ここで苦労する生徒が多いようです。そこで、「キーワードや研究対象をしっかり定義しよう」と指導しています。例えば、「文武両道」の意義について調べていた生徒は、「『学力』の定義は何だろう?」、「『武』は部活動以外にどのようなものが含まれている?」などと、テーマを分解して定義を固めることによって、問いが深まっていきます。こういった過程で活躍するのがジャパンナレッジSchoolです。複数の辞書を簡単に使えるのはもちろん、調べた言葉の類義語と比較して相違点を考えることで、さらに理解が進みます。また、自然文で検索できる「セマンティック検索(新書・文庫)」を使う生徒も多くいます。テーマに関する率直な疑問を入力すると、関連する新書を見つけることができ、問いの設定やその先の研究を発展させていく段階で役立っています。教員からしても、ウェブ検索や生成AIから得た検索結果よりも、書籍にあたって調べてくれるほうが安心です。
このように、気になることを見つけては辞書を引き、そこから気になることを発見し……、という作業を続けることで、生徒のオリジナリティーが生かされたテーマに落とし込んでいくことができます。
2年生のテーマ例(分野/カテゴリ/テーマタイトル) ※インタビュー時点での内容
- 自然現象と数理/数学一般(含確率論)/「UNOのランダム性が最も高まるシャッフル方法とは」
- 自然現象と数理/電気電子工学/「ハンディファンの上位互換を考える」
- 生命・物質の世界/医用生体工学、生体材料学、放射線、化学物質影響科学/「高校生の生活習慣と片頭痛の関連性」
- 生命・物質の世界/工学、プロセス工学、生物機能、バイオプロセス/「魚の鱗を利用したバイオマスプラスチックの作成と作成条件による性能の比較」
- 環境問題と自然災害・防災/環境学/「南海トラフ地震が湘南地区に与える影響」
- 人文・言語と社会、世界と地域/経済学/「日本はどれだけの『他国の川』を輸入しているか。」
- 人文・言語と社会、世界と地域/心理学(行動心理学、言語心理学)/「英語で考えると冷静になる? ―日・台・米の高校生におけるフレーミング効果と外国語効果の比較調査―」
教員や他校の率直な視点が生徒のモチベーションを高める
辻先生:各分野の指導は、理数を中心に複数の教科担当が行っています(画像3)。教科等横断的なアドバイスができますし、文系のテーマ研究であっても、統計の知識をはじめとした理数系の視点を取り入れられるよう、意識して指導体制を整えています。
画像3:テーマを担当する教科教員配置の例。
また、各グループにノートを1冊配布し、授業中に探究がどのように進んだかを記録してもらっています。各担当教員が記録を確認し、率直な疑問や、深掘りできそうなポイントを簡単に伝え、生徒が自発的に探究を深めていけるよう、サポートしています。
画像4:探究活動の記録ノート。生徒が進捗状況を記入し、先生が赤字でフィードバックを行っている。
さらに今年度は平塚中等教育学校と連携し、研究計画書を交換し、双方の生徒がフィードバックしあう取り組みを始めました。学校によって指導の特色が異なるからか、生徒たちの研究の個性の表れ方に違いがあるようで、「新鮮な視点や発見が多く、勉強になった!」という声や、参考文献を紹介してもらったグループもありました。同世代の生徒からもらうアドバイスは教員から言われるよりも理解しやすく、生徒のやる気を大きく刺激したようです。他校のレベルの高い研究計画を読んで、「もっとすごいものをつくってやる!」と探究活動のモチベーションがぐっと上がったチームもあり、正直驚かされました。次年度以降も他校との交流は続けていきたいです。
画像5:交換した研究計画書と、それを読んだ生徒の感想。
外部の多様な視点を取り入れて研究を進化させる、3つのサイクル
辻先生:昨年度からの取り組みで大きく変わったのは、発表の機会を3回に増やしたことです。1回目は2年生の10~11月に校内で中間発表をします。そこでのフィードバックを受け、2回目は2年生の3月に外部からお客様を招いてポスター発表を行います。有識者や、近隣の高校の生徒や教員の前で発表を行い、質疑応答で2度目のフィードバックを得ます。それを受け、3回目は3年生の7月に成果発表を行います(画像7)。その内容をもとに9月に論文を提出して、探究プログラムが完了します。
調べて終わり、ではなく、外部の多様な視点を積極的に研究に取り入れていくことで、「共創探究」が達成されます。自分の興味関心を深めるだけでなく、周りの意見を研究に落とし込むスキルが身につくのです。また、1度目の発表時期を早い段階に設定することで、フィードバックを受けた研究結果を持って校外のコンクールに参加することもできます。意識的に生徒がチャレンジする機会創出にもつなげたいです。こういったサイクルを回していく経験は、大学での学びにも生かしていけます。
画像6:同校の探究活動におけるサイクルの図(同校パンフレットより)
画像7:3年生が7月に行う成果発表の様子。
さらに多様な意見を取り入れられるよう、外部との連携を強化予定
辻先生:次年度以降は、1年生のミニ探究で平塚市役所に協力いただく予定です。身近にある社会課題についてお話しいただき、探究のテーマ設定に生かします。さらに卒業生や企業との協力体制も充実させたいです。特に、本校がSSH校に指定され探究活動に力を入れ始めてから年数が経ち、当時の卒業生が大学の修士課程や博士課程に進んだり、社会人として活躍し始めたりしています。協力したいという声がけももらっているので、ぜひ実施したいです。さらに積みあがってきている現役の生徒たちの発表内容をアーカイブ化し、研究の参考にする仕組みも整えていくつもりです。
画像8:校内の廊下に飾られた発表ポスター。
生徒が主体的に取り組めば、おのずと興味深い探究になっていくと考えているので、「教師が教える」というより「生徒に気づいてもらう」ということを意識して、これからも指導を続けていきます。
ただ、教員だけでは専門的な指導に限界がありますし、視点は多いに越したことはありませんから、正しい情報の収集方法としてジャパンナレッジSchoolを活用したり、外部との接点づくりを積極的に行ったりと、環境づくりにもさらに力を入れていきたいです。
(2026-10-02)
画像9:お話を伺った司書の橋本さん(左)と研究開発グループ所属の辻先生(右)。