ジャパンナレッジSchool収録のコンテンツ「新編 日本古典文学全集」を、全国でもトップレベルでご活用いただいている西武学園文理高等学校。今年の夏に紀伊國屋書店新宿本店アカデミック・ラウンジにて行われた、「ジャパンナレッジSchoolイベント」での岡田先生のお話をもとに、古典の授業での活用事例を紹介いたします。
活用事例
「古典文学全集」を用いた
オリジナル動画づくりで
古典文学の面白さを知る
西武学園文理高等学校
私立・共学/学年:高1/JKS導入:2021年/利用端末:ノートPC
動画づくりを通して、古典を学ぶことの楽しさに触れる
「ジャパンナレッジSchoolイベント」 プレゼンテーション資料より。
岡田先生:『宇治拾遺物語』の「児(ちご)のそら寝」は、1年生の多くの教科書に採録されています。『宇治拾遺物語』には短いお話がたくさん載っているので、古典初学者でもとっかかりやすい。生徒もこれならば負担なく読めるのではと考えました。
そして『宇治拾遺物語』を多読してもらうために、班ごとに好きな説話や物語をピックアップし、そのプレゼンテーション動画を作成するという課題を与えました。しかし、初めから全部読むのは生徒にとってはハードルが高いので、いくつか印象深いお話を伝えて、作業に取り掛かってもらいました。生徒たちは、まずは一人ひとり好きな話を持ち寄り、その中から取り上げる話と動画のテーマなどを決め、イラストやBGM、ナレーションなどを入れて、それを2、3分の動画にまとめてくれました。
動画作成にはCanvaというオンライン上のデザインツールを利用しました。このデザインツールはTikTokやYouTubeの動画作成に使われており、生徒たちにとってはすごく身近なので、熱心に作業してくれました。動画はFlipgridというサービスに上げ、コメント欄に感想を書くというスタイルで相互に評価をしました。動画の閲覧時間は延べ80時間だったので、生徒一人が2時間近く視聴したことになります。動画づくりを通して、『宇治拾遺物語』には「児のそら寝」以外にも面白いお話があるんだな、古典ってわりと楽しい科目だなと、生徒たちも気づいてくれたようです。
作品を読み込むことで、物語の魅力が伝わる
岡田先生:1年生の最後に『平家物語』の「木曽の最期」(「新編 日本古典文学全集」では「木曾最期」)の授業をしました。古典嫌いな私が進路を変え、国文学科に進んだのは、このお話がきっかけです。せっかく授業をするなら、生徒たちにあますところなく読んでもらいたいと思っていました。しかし、なにしろ長いお話なんですね。
とにかく読ませるためには、木曽殿(木曽義仲*)の魅力を伝えようと考え、まず、教科書に採録してある部分をみんなで読み込んでいくことにしました。「新編 日本古典文学全集」を使いながら、教科書にある文章の中で注目してほしい箇所は赤字にしたり、読解のヒントをつけたりしました。JKSを使えば、本文や口語訳、頭注をクラス全員で読むことができます。今まで「新編 日本古典文学全集」は図書室に1セットしかなかったので、取り合いになっていましたが、JKSだと、全員が同じ授業で同じものを読むことができるのです。
教科書に採録されている箇所。本文の赤字部分は注目ポイント。「「心情」は「行動」と「セリフ」から読み取ろう」という読解のヒントと、「木曽義仲の最後の日の衣服はどのようなものだったのか、整理しよう」などの生徒に記述させる項目は、「新編 日本古典文学全集」を読んで、生徒たちがまとめる。
JKS「新編 日本古典文学全集」『平家物語』巻第九「木曾最期」より。上の段は頭注、真ん中が本文、下が現代語訳。ページ数は7ページ。
岡田先生:次に作品を丸ごと読むことにしました。教科書に採録されているのは、木曽殿が愛妾・巴御前とともに奮戦していくところから始まり、最期を迎えるまでの場面。木曽殿は粗野な人間だとか、田舎者で何もわかってないとか、話の途中はそういう言われ方をしているのに、最後は木曽殿は仲間との絆を胸に死んでいく。その対比を読むことが、「木曽の最期」を理解するための重要なポイントなんです。JKSを使うとお話が全部読めるから、木曽殿のいろんなエピソードがわかる。木曽殿の物語全体を味わうことで、生徒が教科書以外の箇所にも興味を持てるようになっていきました。
そうした段階を経て、『宇治拾遺物語』同様、班ごとに動画をつくることにしました。「編集が得意」な子もいれば、「曲をつくるのが好き」とオリジナルソングをつくったり、「絵が好き」と自分でイラストを描いたりする子もいる。あるいは、僕は将来声優になりたいのでとラジオドラマ風につくったりと、生徒たちにはそれぞれいろんな強みがあって、動画もこだわってつくってくれました。生徒たちは、みんなにウケる動画をつくるために自分たちの班にしかないオリジナリティを出したいと、JKSで「木曽義仲」を検索して、「新編 日本古典文学全集」以外のコンテンツからの情報を織り込むことも覚えていきました。こうして、「新編 日本古典文学全集」から広げて、JKS全体で学習することへと、いつしかつながっていきました。
教科書を入り口にして
豊かな古典の世界に
触れるための、格好のツール
岡田先生:こういった授業は、教科書だけだとたどり着かなかったと思います。生徒たちがJKSの質の高い資料を使って学習に取り組むことによって、自分たちも古典の世界とつながっていると感じてくれたんじゃないかなと思っています。
生徒たちは古典を予習するとき、インターネットで「「木曽の最期」口語訳」と検索して、それをノートに写してきていました。テストはそれで十分かもしれませんが、決して面白味はありません。でも、教科書を入り口にしてJKSの質の高い資料に触れることで、その物語や人物のプラスアルファの情報とか、当時の風習とか、いろいろな知識を得ることができます。その質の高い情報に彼らが簡単にアクセスできるというのは、JKSの強みだと思います。
古典を勉強するのは受験に必要だから、と言う生徒は大勢います。しかし、古典文学というのは、本当に胸を打つものだからこそ、ずっと古くから今まで受け継がれてきたものだということを、生徒たちにはわかってほしいし、この先も受け継いでいってもらいたいと思っています。
*宇治拾遺物語
鎌倉初期の説話集。15巻。編者未詳。建保年間(1213~1219)の成立か。貴族説話・仏教説話・民間説話など197話を収める。仏教的色彩が濃い。(JKS「デジタル大辞泉」「宇治拾遺物語」の項)
*きそよしなか 【木曽義仲】
[人名] 平安末期の武将。父源義賢(みなもとのよしかた)の死後木曽(=長野県南西部)で育ったので、木曽義仲と呼ばれる。一一八三年(寿永二)、平氏を破って京都に攻め上り、「朝日将軍」と号したが、部下の略奪行為などで都の人心を失い、のち、頼朝(よりとも)の命を受けた義経(よしつね)らの軍と戦って、近江(おうみの)国粟津(あわづ)(=滋賀県大津市)で敗死した。『平家物語』の主要人物の一人で、特にその最期の場面では、巴御前(ともえごぜん)(=義仲ノ妻妾(サイシヨウ)ノ一人)の剛勇ぶり、乳兄弟(ちきょうだい)今井兼平との主従の契りの深さなどが活写されている。(JKS「小学館 全文全訳古語辞典」「きそよしなか【木曽義仲】」の項)
関連情報
西武学園文理高等学校の、JKS導入の背景や取り組みの成果は導入事例でも紹介しています。よろしければご覧ください。
授業づくりに課題づくり、受験対策でも大いに活用(西武学園文理高等学校)
岡田先生:2021年に高校の全学年でChromebookが導入されたとき、私は1年生を担当していました。ジャパンナレッジSchool(以下、JKS)が入るんだったら、ぜひ授業に活用してみたいという気持ちはありましたが、私はICTが苦手でした。
教科書によく採録されている『源氏物語』『徒然草』『宇治拾遺物語*』『平家物語』などは、そのうちの1話とか2話しか教科書には入っていないんですね。作品の一部を読んでその作品全体の面白さを理解するというのはとてもむずかしいんです。一方、JKSに入っている「新編 日本古典文学全集」には、その作品が丸ごと入っています。JKSを使えば、教科書では伝えられない古典作品の面白さを伝えられるのでは、と思いました。それならいっそ生徒たちには全部読んでほしいなと。それで、まずは『宇治拾遺物語』を選びました。