オリジナル辞書を作ろう
- いろいろな辞書を引き比べて得た学びを生かそう
- 教科書「現代の国語」を参照し、「みんながふだん使う言葉や、知っておくと会話で役に立つ言葉」をテーマにした辞書を作ろう
- ビジュアル的にも工夫したWeb辞書を作ろう
今年創立50周年を迎えた宮城県仙台向山高等学校は、探究学習に熱心に取り組まれています。今回は、国語科の早坂晴子先生に、高校1年生の「現代の国語」の授業における取り組み、「オリジナル辞書作り」についてお話を伺いました。
辞書を作る前に、JKSや自分たちが持っている国語辞典について調べる
早坂先生:「現代の国語」の教科書にある「言葉を見つめる」という単元に、辞書編集者の飯間浩明さんの「辞書は生きている」という文章が載っています。この文章をきっかけに、今回は生徒たちがふだん使っている話し言葉など辞書に載っていない言葉を用いて、オリジナル辞書を作ることにしました。
オリジナル辞書を作る前の準備段階として、まず、一般的な国語辞典の特色をつかもうというワークから始めました。自分たちがふだん使っている国語辞典、つまり「ジャパンナレッジSchool」(以下、JKS)に搭載されている辞書や、生徒それぞれが持っている紙の辞書、電子辞書など、それぞれの国語辞典の特色を把握するというものです。
自分たちの持っている国語辞典のすごさに気づいてほしいというのも、狙いの一つでした。言葉をGoogleの検索窓に入れて、安直に調べてしまう生徒が多いのが現実ですが、きちんと考えられて編纂された辞書で言葉を調べるということは、どういうものなのか、なんてことないように見える辞書だけど、作り手はいったい何を考えて辞書を作っているのか、そういうことを考え、知ってほしいなと。また、高校1年生だからこそ、この先も大切に辞書を使えるように、そしてJKSの価値を感じてられるようにと、そういう思いもありました。
まず、飯間さんの文章にある言葉「やばい」「うざい」「がち」「めっちゃ」「はんぱない」を、JKSや手持ちの辞書で引き比べてもらいました。生徒たちは、自分たちがよく使う話し言葉が意外に国語辞典に載っていることに、びっくりしていましたね。
画像1:辞書ごとに、記載された意味と使用例を書き込む。それをグループで共有し、自分の辞書にはなかったものや、調べきれなかったものを赤字で書き込む。
早坂先生:次に、それぞれの国語辞典を比較するワークに移りました。
JKSの国語辞典については、「コンテンツ案内」を活用しました。また、手持ちの辞書についても調査してもらいました。
JKSの「日本国語大辞典」では、生徒たちは収録語数の多さと価格に圧倒されていましたね。図書館でしか使えない大型辞書がJKSに入っているんだと驚いていました。小学生用のドラえもんの国語辞典を持ってきた生徒もいて、なぜ小学生用の辞書を高校で使っちゃいけないのかということも、グループで話し合ったりしました。
「項目数と価格が比例する」、「「デジタル大辞泉」は年に2回アップデートされているので、新しい言葉が掲載されている」、「刊行年によって収録語彙の内容が異なる」、「辞書を使い分けて活用する必要がある」など、生徒たちはいろいろ学んでいきました。「現代で使われている言葉でも、時代に応じて意味が変化しているものもあった」という鋭い見方をする生徒もいました。
画像2:JKS搭載の国語辞典を比較。振り返りには、「時代が移り変わり、紙の辞書が電子辞書へと変化していき、昔と比べて辞書を並列して読めるようになった」と記述されている。
画像3:手持ちの「明鏡国語辞典」(大修館書店)も調査。「自分の調べたい言葉によって辞書を使い分けたいと思った」と振り返っている。
辞書作りの大変さを知ることができた「オリジナル辞書作り」
早坂先生:オリジナル辞書作りは、ふだん使う言葉や、知っておくと会話で役に立つ言葉をテーマにして作るのが目標です。
まず「項目」について知ってもらおうと、「いちこう」という私が作った項目例を生徒たちに見せました。「向山高校の校舎案内ワード」をテーマにした辞書を作るという設定です。
画像4:項目例として示した早坂先生による「いちこう」は、向山高校独特の教室の呼び方で、第一講義室の略称。同じ市内にある、仙台第一高等学校の略称も「いちこう(一高)」なので、新入生は混同する場合があるそう。類義語には第二講義室の「ニコー」、第三講義室を「サンコー」、大講義室の「ダイコー」、合同講義室「ゴウコー」があげられている。
早坂先生:この後、生徒たちはオリジナルの辞書作りに進んでいくのですが、私は1年生の2クラスを担当しており、各クラス10班で取り組んでもらいました。
例えば「ヒデキン」と呼ばれている男子生徒と愉快な仲間たちが作り出した辞書「ヒデキン新明解」は、仲間同士で使っている意味不明の言葉を明らかにするというのがコンセプトです。
女子生徒の振り返りのレポートでは、「クラスの男子が謎に使っていた意味のわからない言葉が、この辞書で初めてなんのことかわかったので、これから自分たちもちょっと使ってみたい(笑)」という反応もありました。
画像5:クラスで人気者の男子生徒「ヒデキン」と愉快な仲間たちが作った、1組7班の辞書。「新明解」というタイトルもよく考えられている。
画像6:「ヒデキン新明解」の項目「マクラーレン」。もともとは高級スポーツカーのマクラーレンから由来。使用例には「俺、マクラーレンするよ」「やばい、マクラーレンされる」。類義語は「下剋上」。
画像7:1組8班の「8班DUNLOP大辞典」。班の中で生まれた言葉をみんなに知ってほしいという理由での辞書作り。
画像8:2組4班の「先生語録辞典」。その名のとおり、先生がよく使う言葉や好きな言葉をピックアップした辞書。
画像9:「先生語録辞典」の項目例「がおる」。英語のK先生の好きな仙台方言で、意味は「疲れた」「がっかりする」など。用例には「英語の授業でがおった」、「英語の授業がなくてがおった」があげられている。
画像10:2組1班の「あだ名辞典」。生徒や先生につけられた個性豊かなあだ名を紹介。
早坂先生:「自分たちが理解している言葉を誰が見てもわかるように噛み砕いて説明するのは、とても骨が折れる作業だった」、「用例の設定が難しい」、「Web辞書なので、スライドは見やすさを意識し、足りない部分は発表で自分たちの言葉で補った」、「満足のいく仕上がりにはなったが、実際に「辞書を作る」ことはすごく大変なことなんだなと思った」などの振り返りがありました。
オリジナル辞書作りを経て、辞書や言葉に対する生徒たちの見方が変わったことを感じています。
文/国松 薫 (2025-06-09)
画像11:早坂晴子先生。向山高校では主幹教諭を務める。国語科。外部との連携や探究活動にも力を入れている。東北大学大学院教育情報学教育部博士課程後期3年の課程修了。博士(教育情報学)。専門はコミュニケーション教育・表現教育。エネルギー源は、おうちカフェ・庭の花・息子の野球観戦・カメラ。
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