2024年11月に行われたJKSセミナー「古文単語が紡ぐ、作品の場面を旅する学び」では、東京都立南多摩中等教育学校の国語科の小出千亜希先生に、「ジャパンナレッジSchool」収録の「新編 日本古典文学全集」「角川ソフィア文庫 ビギナーズ・クラシックス」などを活用した古典の授業での実践事例をお話しいただきました。そのお話をもとに、活用事例を紹介いたします。
活用事例
JKSの検索機能を使って
古典作品の場面から
「貴族の常識」を考察する
東京都立南多摩中等教育学校
公立・共学/学年:中3/JKS導入:2022年/利用端末:ノートPC

「日本古典文学全集」の本文検索機能を使って、たくさんの古典作品に触れる
小出先生:私は「ジャパンナレッジSchool」(以下、JKS)で「新編 日本古典文学全集」の本文を検索できると聞いて、ピンとひらめくところがありました。全文検索ができるということは、生徒たちがいろいろな古典作品に手を伸ばすことができるということだからです。この機能をうまく使って、生徒たちがたくさんの作品に触れることができないか、また、学習指導要領でも触れられている高校生の「古典嫌い」を解消するために、中学3年生という時期に活きた古典を共有できないかと考えたのが、この単元開発のきっかけです。
小出先生:まずJKSで古文単語を検索し、その出典となる作品にアプローチします。そして、その場面にある古典の「常識」の面白さを発見し、生徒たちが考察するという単元です。最初の4時間は個人探究で、生徒たちは古典文学にある「常識」の面白さを探します。その後、グループに分かれて3時間で発表の準備を行い、そして最後に3時間かけてグループ発表をします。
この単元で使用したものは、私が作った紙の冊子とPadlet(パドレット)という情報共有ツール、それにMicrosoftのTeamsです。発表にはパワーポイントやCanva(キャンバ)を使用しました。
小出先生:個人探究のやり方ですが、まず、6人で1グループになってもらい、貴族の4つの常識ジャンル「愛」「政治」「宗教」「貴族」をグループごとに振り分けます。各グループには自分たちが調べるジャンル名を記した封筒を配ります。封筒の中にはキーワードが書かれたプリントが入っています(画像1「仕掛け② 探求キーワードプリント」)。それをヒントに、各々が貴族の常識を探っていきます。
生徒たちはJKSとウェブを使って検索をしていきます。JKSでは、古語辞典などに引用部分の出典が載っているのでキーワード検索を、そして「日本古典文学全集」の全文検索を使います。また、Googleなどウェブを使う場合は、必ずその情報が正しいかどうか見てほしいので、原典に当たるよう指導しました。
ウェブもいいのですが、手触りや厚みなどを感じながら、紙の本に触れるという楽しさも知ってほしかったので、JKSから実際の書籍に手を延ばすための仕掛けも作りました。司書の先生にご協力いただいて、図書室に古文作品の読み放題コーナーを作ってもらいました。古文の原文だけではなく、さまざまな作家による現代語訳、解説本、漫画などが置いてあります。生徒たちは図書室に行き、本を手に取って楽しんでいました(画像2「仕掛け⑤ 古文作品読み放題コーナー」)。


JKSの全文検索や書籍から、当時の「常識」を描いた「場面」にたどり着く
小出先生:生徒たちはさっそく、プリントに書かれたキーワードを分担してJKSで調べ始めました。「コンテンツを選んで検索」で「全文全訳古語辞典」「日本古典文学全集」「角川ソフィア文庫 ビギナーズ・クラシックス」を指定して検索していきます。
例えば「もののけ」という語。生徒たちは、これを「全文全訳古語辞典」の「キーワード検索」で検索して、例文の出典に「蜻蛉・上・応和二年」を発見します。「蜻蛉」は『蜻蛉日記』のことですが、生徒たちは「トンボ」と間違えて読んでしまったり、書名から「日記」が省略されたりしているので、なかなか書名にたどりつけません。JKSの「日本古典文学全集」の全文検索も、生徒たちにはハードルが高かったようです。原文だけでなく現代語訳でさえも言葉が難しかったり、原文と現代語訳のページが若干ずれていたり……。でも生徒たちは、試行錯誤しながら一生懸命検索します。個人探究の1時間目は、生徒たちはそれぞれ暗澹たる表情をしていましたね(笑)。
JKSの機能で便利だったのが目次ページです。『源氏物語』の「葵の巻」は全体の真ん中なのか、最後なのかということを目次で確認しておくと、次に別の本に当たるときに、なんとなくあたりをつけることができます。JKSの検索機能が、別のコンテンツにあたるときに検索ツールとして役立つことがわかりました。
生徒たちは図書室の読み放題コーナーでも調べるのですが、ここでは、キーワードが出てくる場面にしおりを挟んでおくという、アナログな仕掛けもやってみました。生徒たちが「常識」が描かれた場面を見つけやすいよう、このようにいろいろ工夫しました。


情報共有型ツールを使って、クラスみんなで「常識辞書」づくり
小出先生:古典作品の場面から「常識」を見つけたら書き込める「常識辞書」を、クラスみんなで作っていきます。ここでのポイントとしては、どの程度のものを生徒たちに書いてほしいのか提示するために、「記入の手引き」を入れることです。



小出先生:よく「紙かICTか」といった問いが出ていると思うのですが、私としては「紙もICTも」という考え方です。単元の初めには毎回、紙の冊子「Quest」を作って生徒たちに配っています。目標や評価を書く欄もありますが、生徒たちにいちばん意識してほしいところは、学習の流れの振り返りです。生徒たちには学習前に仮説を立てさせます。今回なら「1200年前の人々の文化や風習を学ぶことの面白さは何か」。毎日の学習の振り返りを経て、最終的にまた同じ問いについて考え、結論を書いてもらいます。学習前と後にどのような変化があったのか、自分の学習を振り返って調整できるのか、そこが大切です。


「目当ての言葉を探すうちにうっかり読みふけってしまった」という嬉しい感想も
小出先生:「常識辞書」を作り終えると、グループごとの発表に移ります。今回は発表準備に3時間、そして発表に3時間かけました。
「枕草子」から、初めての出勤日の緊張度合いを読み取ってみたり、平安貴族の常識をゲーム形式で紹介したり、また、生徒たちに身近なLINEで今風に文のやりとりを再現してみたりと、グループそれぞれに趣向を凝らした内容でした。


小出先生:単元の終わりに生徒たちに感想を書いてもらうのですが、「目当ての言葉を探すうちにうっかり読みふけってしまった」という感想がいちばん嬉しかったですね。この単元でまさしく私が目指していたものでした。また「人に興味を持ってもらえる発表をするためには自分も興味を持ってその題材に向き合うことが大切」という感想もありました。発表を授業に置き換えたら、「いい授業をするにはまずは教師が興味を持つ」ということなんですよね。生徒たちが、本質的なところをこの単元を通じて発見しているのが、非常に面白かったです。
JKSの魅力は、すべて一次情報であるという安心感。これはもう本当に大きなメリットだと思っています。そしてさらに、豊富な資料を簡単に比較することができるところです。図書館に設置した古文の読み放題コーナーでは、人気が偏って、生徒たちが一冊の本を取り合いになったこともあったのですが、JKSは1人に1つですので、完結して読み比べができます。
また、何よりどこでも使うことができるので、家庭だけでなく外でも使えるわけですから、生徒たちの学びが教室の外へと広がります。JKSがそのきっかけの一つになったらいいなと思っています。

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