2024年11月に行われたJKSセミナー「古文単語が紡ぐ、作品の場面を旅する学び」で、東京都立南多摩中等教育学校の国語科の小出千亜希先生に、「ジャパンナレッジSchool」を活用した授業の実践事例をお話しいただきました。そのお話をもとに、1つ目(JKSの検索機能を使って古典作品の場面から「貴族の常識」を考察する)に引き続き、2つ目の活用事例を紹介いたします。
活用事例
「下の句作成+群読」で
「おくのほそ道」への
理解を深める
東京都立南多摩中等教育学校
公立・共学/学年:中3/JKS導入:2022年/利用端末:ノートPC

芭蕉の句に下の句をプラスし、群読することで、「おくのほそ道」を探究する
担当:小出千亜希先生
主な活用コンテンツ:「角川ソフィア文庫 ビギナーズ・クラシックス セレクト90」「新編 日本古典文学全集」など
名句に下の句をつけ、芭蕉の世界を疑似体験する
小出先生:この単元は「おくのほそ道」という一つの作品をじっくり読む、つまり収束させる方向で行おうと考えてみました。
小出先生:この単元は、前半は4時間、後半は3時間で取り組みました。生徒たちは「おくのほそ道」を読むのが初めてだったので、まず2人1組のワークを入れました。いろんな観点で作られた資料を配り、それぞれが速読した後、相互に説明させて合体させるというワークです。2人ジグソーのような感じで要点を埋め込んでいくことで、作品の大まかな内容が理解できます。
そして次に、下の句(七・七)をつける芭蕉の名句を探します。まず、私から芭蕉のいくつかの句について解説をします。例えば、「おくのほそ道」の第三部の句を並べて、一文字一文字違いがあって、最終的にはこの句になったんだよというような解説です。一文字でこんなに違うんだということを意識づけ、「一文字のもつ力を発見する旅に出かけよう!」というスローガンを掲げて実践に向かわせました。


小出先生:生徒たちには、まず「角川ソフィア文庫 ビギナーズ・クラシックス」や参考文献から、それぞれイチオシの句を選んでもらいます。次に、その句が詠まれた「おくのほそ道」の場面や解説を読み、それを踏まえたうえで、下の句を考えていきます。
この単元は俳句や短歌の授業ではないので、生徒たちには「おくのほそ道」を読むことに意識を向けてほしかったんですね。下の句(七・七)は現代ならではの視点でリニューアルしてもいいし、何かメッセージを加えるのでもいい。あるいは芭蕉に負けないくらいの句を加えてアップデートしてもいい……。生徒たちにはとにかく自由に書くよう伝えました。
アウトプットには、情報共有ツールPadlet(パドレット)*を使用しました。「名句Padlet」と題し、「選んだ芭蕉の句+自分が作った下の句(七・七)」「選んだ芭蕉の句+自分の下の句(七・七)の現代語訳」「選んだ芭蕉の句の原文で場面概要」、そして「その句を選んだ理由」あるいは「芭蕉の句の批評」のいずれかを生徒たちに記入してもらいました。最後に「自分の七・七に込めた思い」を書き、それをイメージする画像をつけて投稿します。
* Padlet(パドレット)
文章や画像、動画などの情報を共有し、リアルタイムで編集できる無料のWebサービス。記入項目を自由に追加・削除でき、コメント機能も使用可能。



小出先生:下の句を作り終えた生徒の感想には、「時代をこえて芭蕉と同じ景色を見て句を作ろうとしているのかなと感慨深く思った」、「一見浅いように見える句でも実際に解説を読んだりすると面白い意味が込められていた」というようなものがありました。「おくのほそ道」を読んで、さらに解説を読むことは、なかなかしないと思うんですけれど、下の句をつくることがきっかけとなって、もっと知りたいという気持ちが生まれ、解説を読んでみたらやはり芭蕉の句は深いんだっていうことに気づけたということだと思います。「名句Padlet」をみんなでつくることで、生徒たちにとってはいい循環を経験できたのではないかと思っています。
発表の意図を言語化することで、生徒の学びを広げる
小出先生:後半はグループに分かれて群読をしてみました。ここでは「いかに素晴らしい群読をするか」ではなく、「意図を言語化し、その効果について自分で説明する」というところに重点を置きました。

小出先生:まずグループに分かれ、芭蕉の句の中からイチオシの名句を選びます。そして発表の際は、原文をみんなで分担して音読していきます。俳句部分のみを、いろいろな技法で群読します。あるチームは「追いかけ」技法を使って読んだり、あるチームは大きな声で読んだ後に、続けて同じ句を小さな声で読んだり、また、あるチームは、人数を増やしたり減らしたりしながら群読したりと、みんな、いろんなスタイルで取り組んでくれました。
群読パートが終わると、その句に詠まれているのはどんな場面なのか、さらに音読で用いた表現技法の意図は何だったのかを、クラスのみんなに説明します。そして、それからもう一度、群読をします。
ポイントは、群読の表現技法に込めた意図の説明も発表することです。例えば、以下は「雲の峰 いくつ崩れて 月の山」という句を群読したときの生徒の説明です。
二句目では、雲が崩れて月と山が姿を現す様子を表現するために、だんだんと雲が崩れて姿を現す様子を表現しました。これには、「追いかけ」という群読の表現技法を使用しています。また、その後、明るく映っている三日月や月山の存在感を表現するために、一度息を止め、音の切れ目から次の場面へ移り変われるようにしました。
小出先生:最初の群読では何を表現したいのかわからなかったのが、技法を説明してもらった後にもう一度聞くと、「そうか、そういうことだったんだ」みたいな気づきがあるようです。聞き手の反応がすごくよくなるんですね。発表する側も楽しそうでしたし、聞く側も作品に対する理解が深まったようです。
小出先生:この単元でも生徒たちから感想をもらいました。まず、音読そのものがすごく楽しかったって言う生徒がやっぱりたくさんいました。「五七五って気持ちがいいな」、「リズムが楽しいんだな」とか。下の句を作った時は、個人で言葉に向き合ってずっと考え続ける作業だったので、「後半は声に発することで楽しめた」とか。
言葉のもつ力ということを実感した生徒からは、「芭蕉が込めたかった思いや映し出したかった情景にぴったり合う語感、子音や母音の重なりがある言葉を使っていて、こだわりが詰まっていることがわかった」という感想をもらいました。
そして、協働の楽しさを知ったという生徒たちからは、「自分以外の視点から俳句を見ることができた」、「自分では思いつかないような表現をたくさん見ることができた」という感想をもらいました。
私も「一人ではできない学び」、つまり協働することを大事にしたいと思い、つねに授業をしています。コロナ禍だったころも含めていろいろ考える中で、やっぱり協働することに、楽しみや意味を見出してほしいんですね。この単元を通して、生徒たちは、他者の視点を得ることで学びの広がりを得たのではないかと感じています。

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前半:芭蕉の旅の軌跡を読み取り、心に響いた一句から言葉の世界を広げよう
後半:音声表現について考え、声のもつ力を体感しよう